中学、高校の教育現場でしばしば行われる観察実験。『たまねぎの根端細胞の観察』など、何度か授業で実践された先生もおられるのではないでしょうか。
多くの観察実験では、肉眼や顕微鏡をつかって観察対象をスケッチし、教科書の結果と照らし合わせて終わってしまうことが多いのではないでしょうか? 確かに教科書で学んだことを実験を通じて深く理解させる過程はとても大切なことですが、せっかくの観察実験をそれだけに使うのはとてももったいないことだと思います。というのも、観察実験は、研究者として必要となる様々な能力を育成できる優れた実験系だからです。
例えば、下に示す細胞の写真は、同じHela細胞の微小管を3つの異なる手法で染色した写真です。微小管は細胞分裂において分裂装置(紡錘体、星状体など)を形成する重要な骨格タンパク質です。どの写真においても染まっている色は違いますが、繊維状の微小管が細胞内に張り巡らされていることを観察するということができます。しかし、分裂装置の役割を正しく理解していくためには、繊維の流れる方向や起点など観察すべき点は多くあります。
観察実験において最も重要な点は、観察対象を注意して観察し、見逃してしまいそうな些細な点にも注意を払って観察対象の特徴を見つけ、理解する“見つける力、見逃さない力”を養うことにあります。世紀の大発見も、ほんの些細な違いを見つけることから始まったと言われており、このような能力の育成は次世代のテクノロジーを創出する人材には不可欠といっても過言ではありません。観察実験は、「生徒に何を見せるのか」ではなく、見たことから「生徒に何を気づかせるべきか」にあり、気づかせることで、生徒には新しい能力が芽生え、理数分野に対する興味・関心の喚起へもつながるはずです。
今回の実験教材は、細胞小器官の観察実験を例に、観察実験において生徒のどのような能力の育成が可能か、またどのように指導すればそのような能力の養成が行えるか、我々、研究者がそのポイントをわかりやすく紹介、解説します。
HeLa細胞の微小管を同じ抗チューブリン抗体で染色した様子
- 蛍光抗体法
(FITC; 緑色)
- 酵素抗体法
(HRP; 茶色)
- ナノゴールド抗体法
(金ナノ標識; 黒色)