カテゴリー別アーカイブ: FIRST誕生の秘話

タマゴが先か、ニワトリが先か?

物事にはセオリーというものがあり、その順番どおりに物事が執り行われることが多くあります。

これは教育の世界も同じで、セオリー通りにすると学んだことを定着しやすいと考えられています。しかし、あまりにそのセオリーに固執し、囚われてしまうと、むしろ教育効果が失われたりする場合もあったりします。

FIRSTで学ぶ研究分野では、「実験」と「講義」は表裏一体で、どちらもしっかりと学び、修得しなければなりません。仮にどちらか一方の修得が不十分であったり、欠けたりすると、優秀な研究者にはなることが難しくなっていきます。だからこそ、しっかりと学びたいところなのですが、ではどう学ぶのが効果的なのか? 

研究分野におけるセオリー通りの考え方では、①実験技術に関わる基礎知識をしっかりと講義で学び、②学んだ事を実験によって確認する、という方法がよく用いられています。

確かに実験をするときに何をしているのかわからないまま、やってしまうより、何をやっているか事前に講義で学んでおけば、実験に対する理解も飛躍的に上昇する気がしてとても合理的な「セオリー」だと思うのかも知れません。

ただ、実際に自分でやってみると理想と現実は違うものなんですよね。実験をしてみて初めて興味を持つ分野があったりもします。やった後に調べてわかることもたくさんあります。最初に講義で学んだからといっても、膨大に習う講義内容をきちんと理解できていないこともしばしばあります。

また、実際の研究はセオリー通りなのか?といえば、そうでもなかったりします。研究開発はそもそも未知の分野。最初に何を学べばいいのか???

設立準備委員会でもいろいろな議論が交わされました。ただ、この問いに関して、正解も不正解もないんです。最終的に我々が選んだのは実験をしてみて、おもしろければ深く学んでいくというスタイルです。

よかったか悪かったかは、わかるのはだいぶ先のことだと思いますが、学生実験に取り組む学生を見たり、彼らが学年を進行して話を聞くところでは興味・関心の喚起に繫がっているように思えます。

いずれにせよ、表裏一体となる「実験」と「講義」を関連づけながら学び、成長して育ってくれれば嬉しい限りです。


サイエンスライブチケット(Science Live Ticket)

さて、このFIRSTは若手教員が意見を出し合い、優れた人材を輩出するための様々なカリキュラム、システムが導入されています。今日は、そのひとつである「サイエンスライブチケット(Science Live Ticket)」についてお話したいと思います。

このFIRSTは、最先端研究を学び、次世代の最先端技術を創出する人材を育成することを前提につくられました。以前に、最先端の実験技術を学ぶFIRSTの特徴ある学生実験プログラムについてご紹介しましたが、そのような技術を身につけ、実験・研究に取り組めば、学部生のうちからすばらしい研究成果を見つける人もいるかもしれません。そして、自らの手で得た研究成果を世の中に発信するため、たくさんの研究者たちの前で発表する機会も必ず生まれます。その発表の場は、主に学会やシンポジウム、セミナーとなるでしょう。学会では、研究者たちが自分たちの発見した最新の研究成果を発表しており、まさしく研究者たちが自分たちの研究成果を披露し、熱い議論を行う場です。

優秀な研究成果を世に出すための登竜門となる学会。じゃあ、学部の早いうちから学会とはどのようなものか、どんなことが聞かれているのか、発表や質問はどれくらいのレベルなのか、知ってもらっておけばいいじゃないのか?という考えのもとで考えられたのが「サイエンスライブチケット」です。最先端を学ぶ学部なのに、最先端を知らねばどのくらいがんばらないといけないかもわかりませんからね。そのため、このサイエンスライブチケットは、設立当初からFIRSTの学びの柱の一つにも挙げられ、いくつもの企画が実施されてきました。

サイエンスライブチケットの目的は、ポートアイランドキャンパスに学会を招致し、学生さん達に参加してもらったり、学外で行われている学会に参加したりしながら、学会とはどのようなものかを早いうちから知ってもらうことにあります。学生さんは学会に参加してその雰囲気を味わったり、著名な先生の講演を聴いたり、また、場合によっては自らの研究成果を発表してもらうことも想定しています。

開設して3年、一期生たちもこれから本格的な研究に携わることになりますが、最先端の分野で活躍する人材を輩出したいという我々の想いのもとつくった「サイエンスライブチケット」が、学生さん達の成長や将来へと繫がって欲しいものです。

具体的な取り組みや成果はまた後日、紹介したいと思います。


企業が大学生に求める能力とは?(4)

さて、企業が大学生に求める能力、ひとまず今回が最終回です。

前回書いた、研究で培うことのできる「能力のホールパッケージ」とはどのようなものでしょう?
研究のプロセスに沿って、箇条書きにしていきたいと思います。

・文献調査/情報分析能力
 研究とは未知のコトを明らかにしたり、世界初のモノを創造したりすること。したがって、まずは論文等の文献を調査して情報を分析し、「何が未知なのか」「何が既にあるのか」という事実を把握する必要があります。

・専門分野の基礎知識
 文献を調査したり、その内容を理解したりするためには、専門分野の基礎知識が欠かせません。

・問題発見/問題提起能力
 未知のコトや未創造のモノであっても、解明して面白くもなければ、つくっても何の役にも立たない、というようなものは研究の対象としてもしょうがありません(長期的にみて面白いか、役に立つか、の判断は本当に難しいんですけどね)。何に取り組むべきか、発想と見極めが求められます。

・問題解決能力/計画力
 取り組むべき課題を見出したら、次はどう取り組むか? です。天才的なひらめきがある人は素晴らしいのですが、ひらめきがない人も、たくさんの研究事例から「定跡」を身につけることで研究者として十分な問題解決能力/計画力を身につけることができます。

・実験技術
 言うまでもありませんが、実験技術がなければ実験することができません。実験を必要としない科学・科学技術もありますが、ナノやバイオは多くの場合、実験によって新事実を発見したり、新物質を創造したりします。

・コミュニケーション力
 研究というと、一人で没頭しているイメージがあるかもしれませんが(そういうタイプの研究者もいないことはありませんが)、学生の研究は、教員とはもちろんのこと、まわりの人たちとコミュニケーションを取りながら協力し合って進めていくことが多いです。また、会社では上司を納得させたり、部下を指導することもあり、コミュニケーション力は重要です。

・ 考察力
 実験結果という客観的事実を読み取って、それが物語っている事柄を論理的に考え、纏めていく能力です。さらに、考察の途中で生まれた疑問や仮説を検証する実験や調査の計画を立てる力につながっていきます。実験結果を「マーケット調査結果」や「ユーザー動向調査結果」などにおきかえて考えてみれば、広く必要とされる能力であることがわかると思います。 

・プレゼンの能力とスキル 
 研究成果を論文のかたちにまとめて発表したり、壇上やポスター前に立って口頭で成果を伝えたりする能力です。成果の「どこが新しいか」「どこが優れているか」などを、背景や比較対象をうまく示しながらアピールしていきます。また、企業では、研究を行う以前に、「こういう研究に取り組みたい」「こういう成果が期待できるからこれをやれば会社のためになる」と上司を説得しなければいけません。

いかがでしょうか。このような能力が求められるのは研究職や研究開発職だけではないことは、すぐにわかっていただけると思います。例えば、ナノやバイオの実験とは縁のない、総合職、営業職でも、上に挙げた能力は必要ですよね。

でも、このような能力を磨くためには、何か、本気で取り組む材料が必要なんですね。その「何か」がFIRSTでは、ナノやバイオだ、ということなんです。

前々回、FIRSTで学んでいる内容は、それを直接活かして仕事をする人にとっても、そうでない人にとっても役に立ちます、と書きました。話の結論が見えてきましたか?

結論A:ナノやバイオの研究者になろうと人にとってはFIRSTで学んだことは直接役に立ちます。

結論B:まったく異なる、例えば、文系的な職種に就こうと思っている人にとっても、FIRSTで学んだ内容を活かして研究に取り組むプロセスが、いろいろな力を身につけるのに役立ちます。

ということなんですね。もう一つ、AとBの中間を付け加えさせてもらうと、

結論C:ナノやバイオ以外の理系の道に進もうと思っている人にとっては、研究に取り組むプロセスで身につけたことは当然役に立ちます。さらに、ナノやバイオとは直接関係ないと今は思われていることを、ナノやバイオを関連づければ、新しいことが生まれます。脳科学と情報科学が結びついてニューラルネットワークが生まれました。酵素と電極が結びついてバイオセンサーが生まれました。大学で学んだことと違う分野に進んだら、それはまったく新しいものを生み出すチャンスだと思って下さい。

4回にわたって、企業が大学生に求める能力のほとんどは、研究を通じて身につけることができる、という話を書いてきました。

研究ができるようになれば、どんな仕事だってできるはず! でも、研究が難しくて手に負えないもののように感じるからといって、研究を楽しめないからといって、がっかりすることはありませんよ。研究がうまくできなかった人は、どんな仕事にも向いていない、というわけでは決してありません。仮に、最終的に、研究の能力のホールパッケージを身につけなくても、個々の要素をひとつでもふたつでも身につけていくだけで、大きな前進です。その能力を活かせる、やりがいのある仕事が世の中にはたくさんあるはずですよ!


企業が大学生に求める能力とは?(3)

前回、「企業が大学生に求める能力」を身につけるために、FIRSTでは「研究で学ぶ」ということを書きました。

FIRSTでは「研究で学ぶ」ために、次のような準備をしています。

  • 「研究」を意識してもらうために、同じキャンパス内に研究所があります。キャンパス自体もポートアイランドの研究開発ゾーンに設置されています。
  • 「研究」を感じてもらうために、学生専用スペース・マイラボの隣には実験室やミーティングルームがあります。
  • 「研究」を知ってもらうために、学生専用スペース・マイラボと同じフロアに教員研究室があります。
  • 「研究」に触れてもらうために、例えば授業が無い期間に研究室での研究補助のアルバイトを受け入れたりすることもあります。
  • 「研究」を実践してもらうために、3年生の学生実験は各人がテーマを選択します。

このように、通常は4年生や大学院生になってから取り組む「研究」を、早くから意識付けや教育に取り入れているのがFIRSTの特徴です。

もちろん「研究で学ぶ」理由の一つは、FIRSTの役割、つまり設置の目的が、ナノやバイオなどの先進テクノロジーに取り組む自立した研究者を養成することだからです。

しかし、前回から書いているように、研究者を目指さない人にとっては、研究は決して無意味なものではありません。研究者以外の進路を目指す人にとっても、「研究」は最も優れた教育コンテンツだといえます。それは、研究を行うことによって、学生たちが社会に出たときに必要とされる力をホールパッケージとして養うことができるからです。

ホールパッケージ(whole package)という言葉が大学教育に使われる言葉かどうかはわかりませんが、「すべてが揃っているセット」というような意味で、例えば、歌手のオーディションで 審査員にYou have the whole package ! と言われたら、ルックスも歌唱力もダンスもショーマンシップも全部揃っている! というような意味になります。

では、研究で培われる「能力のホールパッケージ」とはどのようなものでしょうか?

長くなりましたので、次回、研究で養える力について、企業が大学生に求める力と対応させながら書いていきたいと思います。


企業が大学生に求める能力とは?(2)

前回からの続きです。前回は、企業がどのような能力を大学生に求めているかについて書きました。

その記事に掲載したアンケートの回答結果をみると、重視されているのは「行動力・実行力」「バイタリティ・熱意」「協調性」、さらに「論理的思考力」「物事に対する理解力」「常識・マナー」「幅広い一般教養」「プレゼン能力・表現力」「我慢強さ」と続いていました。

では、これらの能力や姿勢は、授業を通じて身につけることができるのでしょうか?

もし「授業とはまったく関係ない」と思っている学生さんがいれば、その学生さんは「アルバイトや部活の経験の方が、社会に出てから役に立つ」と考えてしまい、大学での学びよりもアルバイトや部活を重視して、さらには、授業やゼミが、就業力・社会人力を身につけたり就職活動を行ったりするのに邪魔なものとさえ考えてしまうかもしれません。

実際に、(FIRSTにはまだ4年生はいませんので、前任地での経験談になりますが)4年生になって、ゼミや演習といった学業よりも、就職活動にばかり一生懸命になって、苦戦をする学生さんは少なくありません。早く就職を決めたい、そのためには多くの会社をまわりたい、と焦る気持ちはわかるのですが、私たちから見れば、「力」をつけないで就職を決めたいといっても、「そりゃ苦戦して当然」ということになります。

スポーツで言えば、練習をせずに、試合に出たい・活躍したい、そのためにはたくさんの試合にエントリーしたいから練習する時間は取れない、と言っているような状態でしょうか。 悪循環ですよね。 

そうならないためには、しっかり練習をして力をつけておく、つまり、早い段階からしっかり大学での学びに取り組んでおくことが大切なんです。

そうは言っても、授業、特に講義だけで、上に挙げた「企業が求める力」が身に付くとは想像しにくいかもしれません。では、どうすれば授業を通じて、企業が求める能力を身につけることができるのか?

FIRSTの用意した答えは、学びの中心に「研究」を位置づけることです。「行動力・実行力」「バイタリティ・熱意」「協調性」「論理的思考力」「物事に対する理解力」「常識・マナー」「幅広い一般教養」「プレゼン能力・表現力」「我慢強さ」・・・ これらはすべて研究を通じて身につけることができる、あるいは、研究を行う際に発揮することが求められる類のものです。つまり、研究の力を身につけることは、研究者になるためだけではなく、広く社会人としての力を身につけるために役立つものなんですね。

そこでFIRSTでは「研究で学ぶ」を学部の特徴の一つにしています。
次回は「研究で学ぶ」の中身について書きたいと思います。