大学というところは、正課の授業以外にも学ぶ機会がたくさん用意されています、という話の第2弾です。(第1弾はこちら)
今回は、ブックハンティングツアーという企画に参加した3年生湯浅君から寄稿です。
(ブックハンティングツアーには3年生9人[写真(上)]、1年生4人[写真(下)]の計13人の学生が参加してくれました。湯浅君は写真(上)の最前列中央。)
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11月某日、私は、学生12人、イタリア人風イケメンの先生、図書委員の職員さんとともに、三宮センター街にあるジュンク堂(書店)へと足を運んだ。ポートアイランドキャンパスの図書室に収める本を選ぶためだ。これは、図書室を一番よく利用し、一番ニーズが分かっている我々学生自身が選書をさせてもらえるという、学生のことを一番に考えてくれた「ブックハンティングツアー」という企画。みんなで書店に押し掛けて、ふんわりした制限のもと自由に本を選ぶことができるのだ。
ブックハンターに選ばれたメンバーは、書店に着くなり大騒ぎ。かごを持たされたとたん、獲物をねらった獣のように一斉に本の中に飛び出して行った。気づけばその場に取り残されたのは私一人だった。私の参加動機は希薄なものだった。実は、もともとほしい本もなく、その場のノリでなんとなく参加することになったのだ。そんな私は、いきなり途方に暮れてしまった。とりあえず周りを見渡したが、無数の本に、はぁ~と心の中でため息。さてどうしたものかと考えるうちに、あるコーナーに目がいった。そこはプレゼンテーションのコーナーであった。
私はプレゼンテーションがとても苦手だ。他人に説明するのはもちろん、資料をつくるのも苦手だ。スライドの魅せ方がわからない。フロンティアサイエンス学部にもプレゼンテーション演習という科目が一回生から四回生まで必修科目としてあるが、他の人に比べて、私はなかなかうまくならない。しかし、社会に出て仕事をしていく上で、どんな職種であろうと必要になってくるはプレゼンテーション能力だということはわかっている。これは、学生として授業を受けていても実感する。上手な講義はすんなり耳に入り、理解度も高い。しかし、中には、聞く気にならなかったり、まじめに聞いてもわからなかったり、間違った解釈を覚えてしまう講義もないわけではない。その差はやはりプレゼン能力の差だろう。私自身もこの能力の乏しさから、勘違いや間違いが生みだしてしまった経験が多々ある。やはり、自分の主張を正確に理解してもらうことは、一番大事なスキルなのだ。そんなことを考えながら、何かコツでも載ってないかと一冊とり、パラパラめくっていった。すると、魅せるプレゼン資料をきれいに作る方法、飽きさせないプレゼン手法、PCやプロジェクターなどプレゼンに欠かせない機器の活用術など、幅広く、これまで考えもしなかったテクニックがたくさん載っていた。この本があれば自分も変われるかも知れないと、少し得した気分で、その本をかごに入れた。
次は理工書のコーナーに足を向けた。
理工書といったら分厚く地味な色のカバーといったものが一般の人のイメージではないだろうか。私はそういった難しそうな本を今まで避けてきた。だから、こういったコーナーに立ち入ったことがほとんどなかった。しかし今回は大学に入れる本である。私は仕方なく、分厚い本が並ぶ理工書コーナーに足を進めた。途中、分厚い本以外にも、子供でも読めるような薄い絵本、図艦、それから、ジャパニーズサブカルチャーの一つの萌を取り入れてわかりやすく解説した漫画など、いろいろな種類の本がならんでいた。それらにも魅力を感じたが、しかし忘れてはいけない。今回は大学の図書室に入れる本だ。さすがに萌は入れられない。良さそうな参考書はないかと周りを見渡すと、分厚めの材料工学の本に目がいった。今まで別段興味があったわけではないし、そもそも分厚いので、今までなら視界にも入ってこないような本だった。しかし、なぜか気になってその本に手を伸ばした。
材料工学とは、鉱物などの原料から目的にかなう機能を有する材料を生み出すための理論と方法を研究し、さらにその材料を製品にするときに必要になる技術を開発する学問である。この本では土に還るプラスチック、素材人工血管や人工骨など、いろんな用途に使われる材料の正しい選択について書かれてあった。私は小さい頃からプラモデルやミニ四駆などおもちゃを組み立てることが大好きだった。私はそこからモノ作りの楽しさを知り、理系の道へと進んだ。組み立て式のおもちゃはたくさんのパーツから成り立っている。一つのパーツが足りないとそのおもちゃは完成しない。そしてある小さなパーツがそのおもちゃにとって重要な役割をもつときがある。この本を手にして気付いた。材料工学も一緒なのだ。一つの製品をつくりあげるのにも、その用途に合ったたくさんの最善の原料・部品が必要になっていき、それらの材料があるからこそ、製品に付加価値が付くのだ。少し難しい本だったが、自分の考えや興味にすごくマッチし、とても面白く感じた。最初はパラパラと流していただけだったが、気づくとその本に没頭し、読みふけっている自分がいた。私は思った。「あれ、材料っておもしろいぞ」、そしてもう一つ「将来もこの分野に携える仕事ができたらいいな」と。
私とってこのブックハンティングツアーは、実は心の奥底で興味があったこと、苦手と思っていて改善すべきだったところ、まだ自分でもわかっていなかった自分を本と触れ合うことで自然に探り出せる良い企画であった。プレゼンも材料工学も、授業で習うという受け身の姿勢だけではなく、自分から本を手にとるという前向きな姿勢を取ったからこそ、新しい気付きがあったのだと思う。三年生の私は、この12月から始まった就職活動で着なれないスーツをまとい、多くの企業セミナーに参加している。正直SPI対策や業界研究など、まだまだできていないことはたくさんある。しかしブックハンティングツアーを通して自分の軸となるものは見つけられたような気がする。この企画は私にとって自己を分析する良い機会となった。
この記事を読んだ皆さんも是非大きめの書店に行き、ただ目的の本を購入するのではなく、興味のないようなコーナーを少し周ってほしい。なにか自分のことに気付く、そして変えることができる本に出会うかもしれない。
またこのような機会があれば私は絶対に参加するだろう。
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