FIRSTの大学院(フロンティアサイエンス研究科)にも特徴的な演習科目が導入されています。修士課程に2つ、博士後期課程に3つの計5つあるのですが、そのうちの修士課程で履修する「ナノバイオ研究演習1」について、今日はご紹介したいと思います。
皆さんの中には、大学院では授業らしい授業なんてほとんどなかったよ、という大学院出身者も多くいらっしゃるのではないでしょうか? 私たち教員の多くもそうでした。大学院で学んだことといえば、もっぱら自分の学位論文に関係することだけで、それも独学だったという方も多いと思います。
そして、研究を進めるうちに自分が取り組んでいる研究におもしろさや、やりがいを感じ、この研究を生涯続けたい! と思っていた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
大学院修士課程では、自分で自立して研究を進める能力を育成することが、どの大学でも共通に掲げられている目標であり、そういう熱い思いをもって研究に取り組んでいただくことに何の問題もありません。
しかし一方で、大学で行っている研究と全く同じ研究を、企業に入社後も継続してできる人はほぼいないのも事実です。企業には経営方針の中で設定された研究テーマ、プロジェクトがあり、入社後に研究部門に配属された場合、その研究に従事する必要があります。
そのため、入社後、上司から「この研究テーマをして欲しいから、調べて実験計画を練ってくれ!」と依頼され、研究計画を練る必要も生じます。ところが、最近の新入社員にはそう指示すると「何をどう調べたらいいんですか?」と聞き返す人が多いそうです。「えっ、大学では習っていないの?」と聞くと、「よくわかりません」と答えるそうです。しかし、大学で取り組んでいた研究については関連研究も含めてきちんと答えられるとのこと。
学部4年、修士課程と研究をしてきたはずなのに、なぜそのような基本的なことができないのか?
おそらくは、教授から渡される研究資料を読むだけで、異分野の新しい技術に興味を持ったり、それを調べたりした経験がなかったためではないかと我々は考えました。それで、講義を通じてそのような素養を身につけてもらいたいと誕生したのが大学院修士1年が受講する「ナノバイオ研究演習1」です。
「ナノバイオ研究演習1」では、研究シーズや先行研究に関する調査能力を身につけることを目的としており、以下の3点が学生さんには課されています。
(1)自分の修士論文研究と異なる興味深い研究シーズを探してくること。
(2)そのシーズについて報告されている先行技術を調査し、総説の形で纏めること。
(3)総説の内容を、教員や学生に対して15分間でプレゼン(口頭発表)すること。
夏前から準備をすすめ、 昨日と一昨日の2日間、最後の成果発表である(3)のプレゼンが行われました。
大勢の聴衆を前にしたプレゼン・質疑応答は良い経験になったことと思います。また、教員からだけでなく3年生からも質問が出るなど、質疑応答も活発に行われました。
これまでに読んだことがない分野の論文を探してきて、読んで、纏めるわけですから、受講した多くの学生は大変だったと声を揃えて言います。しかし一方で、日頃から論文を探したり、読むようになった。自分の研究テーマ以外にも興味を持つようになったという学生も少なからずいます。
そのような声を聞くと、講義をつくった甲斐もあったのだろうと思う今日この頃です。