教員の研究紹介(中野先生1)


前回はFIRSTに所属する15名の教員の中から、生命高分子科学研究室の長濱宏治先生を紹介しました。今日は、分子機能科学研究室の中野修一先生をご紹介します。

中野先生は、「生命現象を化学の視点から解明する。生命体がもつ基本原理を明らかにし、テクノロジー開発に役立てる」という研究目標を掲げ、DNAやタンパク質などのバイオ分子の動作原理を解明する研究を進めています。

 

中野

私の研究室では「生命システムで分子がはたらく仕組み」に注目した研究課題に取り組んでいます。最初に、私がなぜこの分野に興味をもっているのかをお話ししようと思います。

高校での生物の授業で食物連鎖と自然淘汰を知ったとき、私は大きな衝撃を受けました。食物連鎖によって地球上のあらゆる生物がお互いに関係し、そして自然淘汰によって生物は進化してきたという事実に対してです。この自然界のおきてを知ることで、それまでバラバラだった知識がつながったときの爽快感を忘れることができません。一方で、高校での化学の授業はあまり好きではありませんでした。物質の化学反応を暗記することに意義を見出せなかったのです。でも大学生になって、化学反応は熱力学のルールに基づいて起こることを知りました。多くの化学反応の理由を説明できる理論の存在を知ることで、心の中のモヤモヤが一気に晴れました。振り返ってみると、私は自然界にある仕組みに心動かされてきたようです。このことは私の今の研究のモチベーションにもなっています。

私の研究室ではDNA(遺伝子)に関する研究を行っています。DNAはとても調和の取れた、きれいな形をしています。2本の長い鎖が絡み合って螺旋(らせん)状になったDNA、これが親から子へと遺伝していく物質の正体です。私たちの身体の中にある、芸術作品ともいえるDNAに驚嘆せずにはいられません。この形がわかったのは、いまから60年ほど前のことです。つまり、この半世紀ちょっとという短い間に、DNAを中心とした遺伝の仕組みが解明されたのです。驚くべきスピードといえます。私が高校生だった頃は、バイオテクノロジーという言葉が世間に広まり始めた頃ですが、生物の授業でもDNAの形については詳しく習わなかったと思います(授業を聴いていなかっただけかも知れませんが・・・)。私の両親に至っては、DNAの話を聞いた経験さえないと思います(ですので、私が大学でどんな研究をしているのかについては、いまだ理解してもらえていません)。今やDNAという用語は広く知れ渡るようになりましたが、DNAの形が教科書で紹介されるようになったのはこの数十年のことです。つまり、DNA研究はとても新しい分野なのです。

中野図1

DNAのすごいところは、その形が遺伝の仕組みを物語っていることです。タンパク質では考えられないことです(たとえば、形から酵素のはたらきを推測することは不可能です)。DNAには相補性と呼ばれる性質があり、パズルのピースを合わせるように、DNAのピースどうしを合わせることができます(DNAのピース合わせは化学的な作用によって行われます)。この仕組みによってDNAの遺伝情報がコピーされ、子孫に受け継がれていきます。つまり、生命体は“化学の力”を利用して遺伝を成し遂げているといえます。フロンティアサイエンス学部で学ぶ生命化学は、こうした生命の仕組みを理解するのにも役立ちます。

中野先生が今、理科を学ぶおもしろさを知ったきっかけや、DNA研究の話など、わかりやすく解説してもらいました。中野先生が今行われている研究は、次回に詳しくお話しますね。(つづく)