酵素や抗体など、わたしたちの体内の分子には、特定の物質を識別するという能力をもつものがたくさんあります。酵素が識別する物質は「基質」、抗体が識別する物質は「抗原」と呼ばれます。「識別している」と意識をされたことはなくても、これらの用語は聞かれたことはあると思います。
酵素や抗体などの「識別」能力を活かして、特定の物質を計測するようにつくられたセンサーを、バイオセンサーといいます。
土田君の3年前期のテーマは、農薬を検出するバイオセンサーの開発です。農薬は、(不本意にも漏れ出してしまうということではなく)積極的に環境中にまかれる物質ですので、環境中や農作物中の残留農薬のチェックは欠かせません。環境中や農作物中にはさまざまな成分が混在していますので、その中から農薬だけを識別して計測することができるバイオセンサーが役に立つ、というわけです。
上の画像は土田君が作製したセンサー基板。チッ化ケイ素という素材の板の表面に、農薬を識別することができる「人工抗体」が薄く貼付けてあります(とても薄いのでこの画像ではよく見えません)。農薬が基板上にやってくると、この人工抗体にキャッチされます。下の画像の装置(反射型干渉分光計といいます)は、その様子が測定できるように設計されています。
大変幸いなことに、小さいながらも、農薬に応答したシグナルが見られました。人工抗体と反射型干渉分光計を使って農薬を測定したのは、土田君がはじめて。まだ高濃度の農薬しか検出できませんので、実際の環境分析や農作物分析に応用するには、さらに感度を向上させる必要がありますが、うまくいけば「安価で大量生産可能な人工抗体で作製できる新しいタイプの農薬センサー」として専門誌に掲載される可能性があります。前期期間の終了まで、あと2週間。性能向上を目指して、がんばってください!