ある実験室の前を通り掛かると、3つの反応を同時に進めている3年生を姿が
.....何を合成しているのか話を聞いてみると(もちろん指導担当の先生の許可はいただきました)、いろいろなアゾベンゼンを合成しているとのこと。私なりの勝手な解釈をもとにテーマにタイトルを付けるとこんな感じです。
「アゾベンゼンの合成と応用 ~ 分子を掴む!放す! 光で制御する“10億分の1メートル”のピンセットをつくる ~」
アゾベンゼンという物質は、高校生のみなさんにはアゾ色素の骨格としておなじみですが、面白いことに、光を当てるとシス体からトランス体へ、また、トランス体からシス体へと構造が変わる(異性化する)性質があります。
このアゾベンゼンの両端に、分子やイオンを掴む“手”を付けておくと、シス-トランス異性化にあわせて“両手”が開いたり閉じたりして、小さなもの(分子やイオン)を掴んだり放したりすることができる10億分の1メートル(ナノメートル)のピンセットができるというわけです。
さて、このような分子サイズのピンセットが何の役に立つかというと・・・
まず薬物送達(ドラッグデリバリー)が挙げられるでしょう。この“ピンセット”で薬分子を捕まえておいて、運び、患部で放す、ということができれば、薬の効果を上げて、しかも(患部以外の場所で薬が作用しないので)副作用を低減させることができます。
また、(高校生の方にはちょっと難しい話になりますが)生体内反応の制御も可能でしょう。からだの中で働いている酵素やDNAを“掴む”ことによって、それらの働き具合を制御することができれば、この“ピンセット”自体が薬として働く可能性もありそうですね。
彼が実際にどのような応用を目指しているかまでは聞いていませんが、合成が成功してどんどんその先の実験が進むといいですね。
翌日、共同測定室の前で彼を見かけたので「どう?合成できてた?」と聞くと、「今、IR(赤外線の吸収パターンから有機化合物の構造を調べる装置)をとってきたんですけど.. ...」とあまりうまくいっていない様子。「実験はいきなりはうまくいかないところが面白いんやん!工夫する楽しみがあるということやん!」という、私の学生時代の先輩の言葉を彼に贈りたいと思います。